息子キョギを太子にするため、サテク妃が声高に叫ぶのが百済の「純血継承」。百済の王は純血の百済人でなければならないと、新羅出身のソンファ妃をしきりにけん制する。サテク妃が指摘するのは武王と恋に落ち、生まれ育った新羅を捨て百済に嫁いだ新羅の姫、ソンファ(善花)姫。これは武王(=薯童)とソンファ姫の国境を越えた純愛物語「薯童説話」に基づいている。
龍と、人間の女性の間に生まれた薯童は幼いころから非常に聡明な少年だった。薯童という名は彼が山芋(薯)を売っていたことから、人々が彼につけた呼び名だった。一方隣国新羅の真平王にはソンファという大変美しい姫がいると噂になっていた。薯童はソンファの噂に興味を持ち、彼女に接近しようと画策する。僧に化けて新羅に入った薯童は子供たちに山芋を与えてある童謡を歌わせる。ソンファ姫が夜な夜な薯童と会っている、という内容のこの童謡はたちまち広まり、ついには真平王の耳にも入った。怒った真平王が姫を追放すると薯童はすかさず道案内を買って出て、二人は手に手を取って百済にやって来る。薯童が山芋を掘っていた場所から黄金が出るのを知ったソンファは真平王のもとにそれを届けさせる。山のような黄金を贈られた真平王はたいそう驚き、姫が立派な夫を得たことを喜んだ。この話が百済の人々にも伝承されると、薯童はだんだん人々に愛されるようになり、ついには王に推挙された。
「三国遺事」に登場するこの「薯童説話」は実在の武王伝とは異なり、あくまでも言い伝えに過ぎないが、ドラマではこの説話をうまく利用し、ウィジャを亡き者にしようとするサテク妃の陰謀の口実にしている。また、大佐平ヨン・ムンジンを味方につけるため、キョギと結婚するはずだった彼の娘テヨンをウィジャが横取りする際にも、既成事実を作るために童謡で噂を広めるという、この説話の手法が利用された。